エッセイ

東京新聞 2003年11月29日掲載
風車◇もみじに想う

 10月半ばに北海道洞爺湖に旅をした。幸い好天に恵まれ、とても文字や言葉で表せないほどの絶景の紅葉と美しい湖に酔いしれた。つい先だっては仕事で京都に行き、さぞや素晴らしい紅葉が見られると思ったのだが、気候のせいか色付きがあまり良くなかった。しかし、あれも紅葉これも紅葉と思うと、それはそれで良かったようにも思う。
 僕はことし68歳、花や紅葉に心を動かされるようになったのは一体いつごろからなのだろうか。恥ずかしながらあまり早熟でない僕は、つい10年ぐらいのことのように思える。多分、以前は花も紅葉も自然も知識の一部として受け止めて、美しいとは思っても心には今ひとつ染みこまなかったのかもしれない。人生50年のころなら花や紅葉を心に刻みつけることもなく、人生を終えていたかもわからない。
 年齢とともに、やれ腕が腰が痛い、物覚えが悪くなる、テクニックが落ちる、作曲は遅くなる。いいことは何もないようだが、よくしたもので、神は美しいものを心に刻みつけることだけは余分に与えてくださるようだ。そう考えると、加齢も存外悪くないなあとも思われる。
 そういえば紅葉は老いの美しさにほかならない。願わくば紅葉のような作曲や演奏ができればいいな、と思うこのごろである。