エッセイ

邦楽ジャーナル 2001年3月号
巻頭エッセイ◇耳の正月、目の正月 最終回

 「定年」この言葉は思ったよりズシリと来る。僕が演奏家としてスタートしてから、定年という言葉は自分のどこを探しても無かった。昨年12月に音大の最後の授業を終えたとき、改めてこのことを考えた。もちろん、演奏家、作曲家、師匠としての自分は相変わらず何やかんやと忙しく何も変わりは無いのだが・・・。がしかし、やはり定年は人生の区切りであり、生まれて65年何をしてきたのかと思うと甚だ心許ない。確かな達成感を持つことが出来たことはあったのだろうか、昔から自分はおくてだと思っていたので、今はモラトリアムと思ってついここまで来てしまったのだが、まあもうひと甘えして定年を機に燃え尽くせなかった分を取り戻そうと思っているところである。
 僕が一つだけ自慢できることがあるとすれば、新しい才能の発見と思い切った人事の刷新ではないかと思う。何故それが出来たかというと、基本的に既成権威にとらわれたりおもねることが余りなく、素直に若い人達を見聞きすることが出来たからではないかと思う。読者の皆様も柔軟な発想で、権威におもねることなく(ブランドにとらわれないことかも知れない)沢山のものを見聞きすれば、より多くの「耳の正月」「目の正月」を迎えることが出来るのではないかと思う。
 最後に長きに亘って拙文を掲載して下さった邦楽ジャーナル、そして何より愛読して下さった皆様に深く深く感謝して筆をおきます。
◇邦楽ジャーナル掲載 http://www.hogaku.com