エッセイ

邦楽ジャーナル 2000年9月号
巻頭エッセイ◇耳の正月、目の正月 6

 先日、恩師三世今藤長十郎先生の十七回忌法要が行われ、その席でこもごも先生の思い出話が出、改めて先生の素晴らしさを感じるとともにその余りに短い命にくやしい思いをした。先生はよく「良いリズム感と良い音程感と的確な技術の訓練だ。とりあえずは技術の訓練に明け暮れること。あとは色々なものをよく見、よく聞き、よく味わい、よく感じれば、自然に芸術的な感性は養われる」とおっしゃっていた。尤もそれが出来れば皆名人になれるかも知れないが・・・。つまり、優れた芸術というものは基礎的な音楽的訓練と技術の練磨なしには有り得ない。それなしには芸術などと云っても砂上の楼閣に過ぎず、プロである限りはともかくハードなトレーニングを自分に課さなければいけない、ということである。
 今の邦楽家は、僕等が育った頃とは比較にならない程音感もリズム感も優れているようであるが、個人的感性を重視する余り、厳しいトレーニングや様式感の把握がともすればおろそかになりがちなところに危うさを感じるのは僕だけだろうか。改めて三世今藤長十郎先生の言葉を噛みしめ、将来有望な演奏家にお話しすることで耳の正月を贈ることが出来ればと思う次第である。
◇邦楽ジャーナル掲載 http://www.hogaku.com